特集:Wikipedia の生成 AI 関連記事Wikipedia電力・環境

「ChatGPT による検索には Google 検索の10倍の電力」(Wikipedia「生成的人工知能」)

第2版・2026年9月30日・出典12件・レビュー未実施

目次
  1. 経緯
  2. 出典の記事との照合
  3. 数値の元
  4. その後に示された値
  5. まとめ
  6. 未確認の事項
  7. 出典
  8. 版の履歴

日本語版 Wikipedia「生成的人工知能」の節「エネルギーと環境問題」にある「ChatGPT による検索には、Google 検索の10倍の電力が必要」という記述を、出典の Washington Post の記事と、その数値の元である IEA の報告書までたどって確かめる。あわせて、その後に公表された1回あたりの電力の値と比べる。

対象の記述

例えば、ChatGPTによる検索には、Google検索の10倍の電力が必要と指摘されており、生成的人工知能に依存するアプリケーションの普及、あるいはモデルの訓練の増加による地球環境への負担が懸念されている。

照合の結果

「10倍」は出典の記事と合う。出典は IEA(国際エネルギー機関)の「ほぼ10倍」という見積もりとして示しているが、記述は本文で主体を示していない。IEA の比のうち ChatGPT 側の 2.9 Wh は、2025年に ChatGPT と Gemini について示された値(0.24〜0.34 Wh)と合わない。Google 検索側の 0.3 Wh は2009年の値で、その後の公表値は確認できなかったため、現在の比は算出できない。

経緯

日本語版 Wikipedia「生成的人工知能」の節「3.10 エネルギーと環境問題」の第1段落は、データセンターの水の使用や電力消費への懸念を述べ、その例として対象の一文を挙げている1。次の引用は、対象の一文(傍点)を含む段落全体である。

Wikipedia「生成的人工知能」より 3.10 エネルギーと環境問題(版番号 111098026)(2026年9月30日閲覧)

生成的人工知能の地球環境面への悪影響が指摘されている。特に、データセンターの運営に際する冷却水への淡水の使用、電力消費、それに伴う温室効果ガスの排出などが懸念されている。例えば、ChatGPTによる検索には、Google検索の10倍の電力が必要と指摘されており、生成的人工知能に依存するアプリケーションの普及、あるいはモデルの訓練の増加による地球環境への負担が懸念されている。

この一文には、Washington Post の記事(2024年6月21日)が脚注で出典として付いている1。一文は2024年9月26日の版(版番号 101985284)で加わった2。2026年6月27日の版(110069710)では、出典の URL が整えられ、閲覧日が「2026年6月27日」とされた。加わった版から取得時点の最新版(111098026)までの135版すべてで、一文の文言は同じである2。

本項では、出典の記事が何と書いているか、その数値がどこから来ているかを順にたどる。

出典の記事との照合

出典は IEA の見積もりとしているが、Wikipedia の本文には主体が書かれていない

Washington Post「AI is exhausting the power grid. Tech firms are seeking a miracle solution.」より 本文(2026年9月30日(Wayback Machine の2024年6月21日の保存版で)閲覧)

A ChatGPT-powered search, according to the International Energy Agency, consumes almost 10 times the amount of electricity as a search on Google.

本サイトによる訳

国際エネルギー機関(IEA)によれば、ChatGPT を使った検索は、Google での検索のほぼ10倍の電力を使う。

一文には出典の脚注が付いており、脚注をたどれば Washington Post の記事に行き着く。記事は、この比を IEA(国際エネルギー機関)の見積もりとして示している3。「10倍」という数字は出典と合う。ただし Wikipedia の本文は「指摘されており」とするだけで、IEA の見積もりであることを書いていない。また、出典の「almost(ほぼ)」が落ちている。日本語の「10倍」は概数とも読めるため、こちらは小さな違いである。

出典の記事は、AI のための電力需要が化石燃料の発電を増やしている、という主題の記事である。この比は、その中の一文として触れられている3。

数値の元

IEA の「ほぼ10倍」は、2009年の Google の公表値と、2023年初めの推計に由来するとされる値を並べた比である

IEA「Electricity 2024 – Analysis and forecast to 2026」より 34ページ(2026年9月30日閲覧)

Search tools like Google could see a tenfold increase of their electricity demand in the case of fully implementing AI in it. When comparing the average electricity demand of a typical Google search (0.3 Wh of electricity) to OpenAI’s ChatGPT (2.9 Wh per request), and considering 9 billion searches daily, this would require almost 10 TWh of additional electricity in a year.

本サイトによる訳

Google のような検索ツールは、AI を全面的に組み込んだ場合、電力需要が10倍になりうる。典型的な Google 検索の平均の電力(0.3 Wh)と、OpenAI の ChatGPT(1回の要求あたり 2.9 Wh)を比べ、1日90億回の検索を考えると、年に10 TWh 近い追加の電力が必要になる。

IEA の報告書(2024年1月)は、1回あたり 0.3 Wh と 2.9 Wh を比べている4。Wh(ワット時)は電力量の単位で、1 Wh は 1 ワットを1時間使った量である。2.9 ÷ 0.3 は約9.7で、「ほぼ10倍」はこの比にあたる。ただし、この段落は二つの数値の出典を示していない。同じ節の図の出典には、de Vries の論文(2023年)が挙がっている4。

二つの数値の出どころとして、確認できたことは次のとおりである。

  • 0.3 Wh(Google 検索):Google は2009年1月の公式ブログで、1回の検索に使うエネルギーを「0.0003 kWh」(0.3 Wh)としている5。IEA の値と一致する。本項では、Google がその後に検索1回あたりの値を更新して公表したものは確認できなかった。
  • 2.9 Wh(ChatGPT):Epoch AI の記事は、広く引用される「約3 Wh」の元は de Vries(2023年)であり、de Vries は SemiAnalysis(調査会社)の2023年2月の推計を引いている、と説明している7。Epoch AI によれば、この推計は、GPT-3.5 を 1750億パラメータ(モデルの規模を表す数。大きいほど1回の計算量が増える)とし、1回の入力を4000トークン、出力を2000トークン(トークンは AI が文章を処理する単位で、単語や文字の断片にあたる)と仮定していた7。de Vries の論文の本文は本項では読めておらず、IEA の 2.9 Wh がこの推計から来たことは確認できていない6。

「10倍」は、時点が14年離れた二つの数値を並べた比である。一方は Google 自身の公表値、もう一方は外部の推計に由来するとされる値である。また IEA の段落は、「Google 検索に AI を全面的に組み込んだら」という想定のもとで、電力需要を見積もる文脈にある4。

その後に示された値

ChatGPT について2025年に示された値は約0.3 Wh で、IEA の 2.9 Wh と合わない

2025年には、生成 AI の1回あたりの電力について、企業や研究者が相次いで値を示した。比較のため、IEA の比の元になった二つの値も並べる。値ごとに、測った範囲が異なる。

時点主体種類第三者の検証対象1回あたり測った範囲
2009年1月Google5企業の公表値記載なしGoogle 検索0.3 Wh検索で動くサーバーの処理に、索引の作成など事前の処理を加えたとしている。冷却などの設備分を含むかは、本文からは読み取れない
2024年1月IEA4出典の記載がない値(2023年初めの推計に由来するとされる)—ChatGPT の1回の要求2.9 WhIEA の記載なし。Epoch AI によれば、元の推計は GPU(AI の計算に使う半導体)を載せたサーバーの最大電力で換算した7
2025年2月Epoch AI の記事7推計なし(算出過程は公開)ChatGPT(GPT-4o)の典型的な質問約 0.3 WhGPU に、サーバーとデータセンターの付帯分を加えた電力で換算。高めに出る仮定を置いたとしている。長い文書を入力すると数十 Wh になりうる
2025年4月IEA11実験値(公開モデル)—(IEA による測定)公開モデルでの文章生成約 0.3 Wh(小型)〜約 5 Wh(中型)実験条件での GPU の消費のみ。実運用とは異なりうるとしている
2025年6月Sam Altman(OpenAI の CEO)8企業の公表値なしChatGPT の平均的な質問約 0.34 Wh個人ブログでの記述。算出方法・範囲の説明はない
2025年8月Google910企業の公表値なし(Google が明記。方法は論文で公開)Gemini アプリの文章の質問(中央値)。ChatGPT ではない0.24 Wh待機中の機械や冷却などの設備分まで含む。GPU などの稼働分だけなら 0.10 Wh としている

Epoch AI の記事は、同機関の「Gradient Updates」に載ったもので、著者の見解であり機関全体の見解とは限らない、と注記されている7。

ChatGPT について2025年に示された二つの値(Epoch AI の推計 約0.3 Wh、Altman の約0.34 Wh)は、IEA の 2.9 Wh の8〜10分の1にあたる。Gemini は ChatGPT とは別のサービスだが、Google の値(0.24 Wh)も同じ程度である。Epoch AI は「約3 Wh」の推計を「おそらく過大」とし7、Google は自社の値を「多くの公開された推計よりかなり低い」としている9。

一方で、比のもう一方である Google 検索の値は2009年のものしか確認できなかった。そのため、現在の ChatGPT が現在の Google 検索の何倍かは、これらの資料からは算出できない。本項で言えるのは、「10倍」の元になった ChatGPT 側の値が、2025年に示された ChatGPT の値と合わないということまでである。

IEA の2025年の実験では、中型のモデルで約 5 Wh と、2.9 Wh を上回る値も出ている11。これは実験条件で公開モデルを動かした GPU だけの値で、ChatGPT というサービスの値ではない。ただ、1回あたりの電力はモデルの大きさや入力の長さで大きく変わる711。2.9 Wh という水準が、どんな条件でもありえないわけではない。

なお、1回あたりの値が小さくなっても、利用が増えれば全体の電力は増えうる。IEA は2025年の報告書で、世界のデータセンターの電力消費が2030年に約945 TWh(テラワット時。1 TWh は10億 kWh)と、倍以上になると見込んでいる12。節「エネルギーと環境問題」の、電力消費への懸念そのものは、本項では検討していない。

まとめ

記述のうち正しい部分:出典の Washington Post の記事は、ChatGPT を使った検索は Google 検索のほぼ10倍の電力を使う、と書いている3。その元の IEA の報告書にも、0.3 Wh と 2.9 Wh の比較がある4。記述は出典の内容から外れておらず、出典の脚注も付いている。

事実とのずれ:

  • 比の元になった ChatGPT 側の値(2.9 Wh)は、2025年に示された ChatGPT の値(約0.3〜0.34 Wh)と合わない。記述は2024年の加筆のまま、現在形で書かれている。

編集上の改善点:

  • 出典が IEA の見積もりとしている比を、本文では主体を示さずに「指摘されており」と書いている。
  • 比の元になった数値の時点(2009年と、2023年初めの推計に由来するとされる値)が書かれていない。
  • 出典の「ほぼ」が落ちている(小さな違い)。

以下は、本項の照合に基づく記述の例である。主体と時点を補うなら、たとえば「IEA は2024年の報告書で、ChatGPT の1回の要求(2.9 Wh)は Google 検索(2009年の公表値 0.3 Wh)のほぼ10倍の電力を使うと見積もった。その後、ChatGPT の1回あたりを約0.3 Wh とする推計や公表値が出ている」のような書き方がありうる。Wikipedia への反映は、Wikipedia の編集者の判断に委ねる。

未確認の事項

  • de Vries(2023年)の論文の本文。出版社のサイトから取得できず、本項では Epoch AI の説明によって内容を示した
  • SemiAnalysis の2023年2月の推計そのもの、および Alphabet 会長の発言を報じたとされる Reuters の記事(2023年2月)
  • IEA が 0.3 Wh と 2.9 Wh をどの資料から取ったか。報告書の該当段落に出典の記載はない
  • Google が2009年以降に、検索1回あたりの電力を更新して公表しているか。2009年の値が冷却などの設備分を含むか
  • OpenAI の 0.34 Wh の算出方法と測った範囲、Google の 0.24 Wh の第三者による検証
  • Washington Post の記事は Wayback Machine の保存版(2024年6月21日)で読んだ。その後に記事が修正されたかは確認していない
  • 同じ段落のほかの脚注(Saenko 2023、MIT Technology Review など)に、同様の電力の比較が載っているか。本項ではこれらを読んでいない
  • 英語版 Wikipedia など、他言語版の同じ記述との関係

出典

  1. 「生成的人工知能」 日本語版 Wikipedia、版番号 111098026(2026年9月21日)、節 3.10閲覧 2026年9月30日、MediaWiki API で wikitext を取得
  2. 「生成的人工知能」の版の履歴。版番号 101985284(2024年9月26日)、110069710(2026年6月27日)閲覧 2026年9月30日、全385版から該当の一文を含む最初の版を特定し、以後の135版の文言を照合
  3. Evan Halper, Caroline O'Donovan “AI is exhausting the power grid. Tech firms are seeking a miracle solution.” Washington Post、2024年6月21日閲覧 2026年9月30日、Wayback Machine の保存版で本文を確認
  4. IEA “Electricity 2024 – Analysis and forecast to 2026” 2024年1月、34〜35ページ閲覧 2026年9月30日
  5. Urs Hölzle “Powering a Google search” Official Google Blog、2009年1月11日閲覧 2026年9月30日
  6. Alex de Vries “The growing energy footprint of artificial intelligence” Joule 7(10)、2023年10月、doi:10.1016/j.joule.2023.09.004閲覧 2026年9月30日に試みたが取得できず、本文は未読(書誌は Crossref で確認)
  7. Josh You “How much energy does ChatGPT use?” Epoch AI(Gradient Updates)、2025年2月7日閲覧 2026年9月30日。著者の見解であり機関の見解とは限らない旨の注記がある
  8. Sam Altman “The Gentle Singularity” 2025年6月10日閲覧 2026年9月30日
  9. Amin Vahdat, Jeff Dean “How much energy does Google’s AI use? We did the math” Google Cloud Blog、2025年8月22日閲覧 2026年9月30日
  10. Cooper Elsworth ほか “Measuring the environmental impact of delivering AI at Google Scale” arXiv:2508.15734、2025年8月21日閲覧 2026年9月30日、要旨のみ
  11. IEA “Energy and AI” 2025年4月、44〜46ページ閲覧 2026年9月30日
  12. IEA “Energy and AI” 2025年4月、14ページ(Executive summary)閲覧 2026年9月30日

版の履歴

  • 第1版 2026年9月30日 作成
  • 第2版 2026年9月30日 レビューを受け、結論の範囲を ChatGPT 側の値に絞り、測った範囲の違いを表に加えた

本項は、AI(本版では Claude)が資料の収集・照合と草稿の作成を行った。編集担当による原典との照合は、本版では未実施である。